アクリル板を挟んであちら側とこちら側は隔たっている。にもかかわらず、透明であるためにその壁の存在はぼんやりしている。それはまるでウィルスによって立ち行かなくなった筈の生活が、それまでと変わらずに存在しているように振舞うための透明な目隠しに思える。
描くことは、人間がどうしようもなく愚かであるということを受け入れつつ、だからといって諦めずに生きていくためのよすがである。透明なアクリル板という、有るけれども、無いことにされなければならない矛盾を抱えた素材の上に描くのは、神話的な方法で記述された世界そのものだ。
アクリル板のあちら側とこちら側は何かが違っている。その二つの空間の奥行きや広がりを拡張し、物理的な大きさを超えてどこまでも止まることなく、もはや画家の手を離れても尚、鑑賞者の中で描き続けられていくような空間を作りたい。
庄司朝美