前田哲明〈Recent Work 2023〉MAEDA Noriaki Exhibition 2023.9.7-10.1
素材の深淵に纏わる謂わば魔力のようなものは、今まで多くの作家が取り憑かれてきたファクターであり、現在まで様々な表現のカタチとなって受け継がれてきた。私は、この数年間のあいだ制作するなかで、ごく自然にその真意を朧げではあるが意識するようになっていた。しかし、私にとってミニマリスティックに素材を潔く扱う境地には到達できないであろうし、この先そのような表現には向かわないような気がする。今まで、手の痕跡が素材に映し出されることを極力避けようとは思わず、むしろ表現の一環として制作に向き合ってきた。しかし、知らず知らずのうちに手の痕跡を最小限にとどめることで素材の特性を活かすよ方法にシフトしていた。しかし、この最小限度の定義が極めて曖昧でもある。鉄を素材としている私にとって、手の痕跡とは溶接を重ねることに他ならない。どこか塑像の粘土付けにも通づる、この手作業の一環としての溶接を重ねるうちに、酸化被膜のない素肌の鉄板に伝わる溶接の痕跡の色が、それ自体、紙面に染み込むインクとオーバーラップする時があることに気付いた。これは素材の表面に現れる手の痕跡に他ならないが、これまで並行して続けてきたドローイングと新たにリンクする要素でもあった。これまで続けてきた無作為に描いたドローイングの根幹に存在するであろう何かが、ようやく三次元のカタチに反映し始めたような感触を得るようになるまで、結果的に歳月を要するものとなった。
前田哲明