松浦寿夫〈Equivalent〉MATSUURA Hisao Exhibition 2020.2.13-3.1
メテオール Météore
メテオールという語は、今日では流星といった意味で用いられていますが、古代ギリシャ語、ラテン語等の語源に遡れば、広く大気現象一般を示す語でした。その意味で、気象学の語源でもあります。そして、このメテオールという語がメテオロス、つまり「空高い」という形容詞から派生したことを考えれば、この語が大気現象と同時に天文学的な意味を併せ持ちうることも想像できるでしょう。 そして、大気現象を観察してみると、世界は無数のざわめきに満ち、たえず局所的な変動に満ち溢れています。そしてこの多数性、いわば変動の多島海を航行する際につねに局所的な選択を組み立て、連鎖させていく航行者と同じく、ざわめきの多数性という条件の肯定のもとに制作を形成していくことはできるでしょうか。
今回、鷲見和紀郎、白井美穂、松浦寿夫の個々の展示を、その現われの様相の異質性にも関わらず、このメテオールという同じ指標のもとに実現する意図もまた、このような思考の展開の試みを個別的に提示する点にあります。不確定的な条件の騒音のなかから明確な形態の出現、しかも、このざわめきのあらゆる刻印とともに出現させようとする鷲見和紀郎、時間的かつ空間的な無数の偏差の干渉と変動の様態を産出する潜在的な可能態それ自体を思考すると同時にその特異な位相の局面を提示しようと試みる白井美穂、いくつもの色彩の領域の干渉と積層化の過程から、局所的な領域の可変的な接続の拡がりを提示しようと試みる松浦寿夫。
今回の連続個展では、三者三様の試みが、いずれもがたどり着くべき岸辺の所在も不確定なまま、しかも予め確定された海図も欠いたまま遂行される航行の際の個別的なウエザーリポートとして展示されることになるでしょう。
Météore – 3 「Equivalent」
古代から雲はそのたえざる変貌の様相において多くの画家たちの思考を誘発する存在でありえたことはよく知られています。そして、その様々な事例を想起することもできると思いますが、アルフレッド・スティーグリッツが1923年から1931年にかけて制作した一群の雲の連作に、equivalentという題名を与えたという事実に興味を抱いてきました。この等価性という語は、少なくとも二つの項とその両者の間の等価関係を示唆します。とはいえ、何と何との関係であるのかは明示的に示されているわけではありません。極端に言えば、各項の実在よりも、ただ等価関係のみが現前しているということかもしれません。ただ、いずれにしても、僥倖のように到来する構成化されない画像とともに、作者が写真というメディウムの特異な様態を発見したという事実は否定しがたいと思います。そして、これは写真の事例にとどまるわけではないと思います。
撮影:中川周